【奈良県吉野郡|朝日館】9月14日(日)グルメの会


画像はホームページより


近鉄橿原神宮前駅から名高い吉野千本桜を望む吉野線に揺られ、終着の吉野駅の一つ手前にある大和上市駅に降り立ちました。
そこは、まるで時が止まったかのように静まり返り、世俗の喧騒から遠く隔たった、忘れられた風景の中に佇む駅でした。タクシーに乗り、吉野川沿いの道を1時間ほど遡ると、ようやく辿り着いたのは、昭和の空気が色濃く残る山奥の宿、「朝日館」。

朽ちることなく、その懐かしさを纏った宿は、まるで時の流れを拒むかのように静かに佇んでいました。古き良き時代の記憶が、そこここに息づき、どこか懐かしい気配が風に揺れていました。

一歩足を踏み入れた瞬間、年配の女将をはじめとする家族経営の温かみのある接客に、すぐに心が解けていくのを感じました。お酒を片手に、清らかな水で育ったアユ料理が運ばれてきました。そのアユは、炭火でじっくりと焼き上げられ、外は香ばしく、内側はふっくらとした白身が繊細にほぐれます。
一口頬張ると、口の中に広がるのは、まるで川そのものを味わっているかのような清冽な風味。ほのかに感じる苦味が舌の上で踊り、その後に続く甘みが、まるで静かな流れの中に消えていくように余韻を残して去ってゆく。骨まで柔らかく、季節の息吹をそのまま閉じ込めたかのようなアユの味わいは、日常を忘れさせ、時間の流れを一瞬止めるほどの滋味深さがありました。

当日の献立

食事を終え、そろそろ宿を後にしようとしていたところ、談笑が聞こえてきました。話を聞けば、若主人はなんと同志社大学経済学部の卒業生とのこと。
思えば、初めて会った時から漂うその利発さには、確かに同志社の精神が宿っていたのかもしれません。その知的で凛とした佇まい、言葉の端々に感じられる教養と品格。それはまさに、同志社という名門が育んだ豊かな精神の風がそっと吹き抜けていたのだと、今さらながらに思い至ったのです。
広いと思っていた世間が、ふとした瞬間に驚くほど狭く感じられることがあります。偶然が運んできたこの出会いに、人と人との縁の深さ、そして世間の狭さをしみじみと感じずにはいられませんでした。

その日のグルメの仲間は、桝中会長、上原さん、谷口さん、そして千賀の4名。
皆、宿の風情とアユの美味しさに心を奪われ、ほろ酔いのまま、吉野の景色に別れを告げました。
風光明媚な山々と、温かなおもてなしに包まれた1日は、まさに至福のひとときとなりました。

千賀俊男


朝日館
https://kawakami-asahikan.com/